露の世

多分ありふれた話なんだと思う。男の子がひとりの女の子に会って恋に落ちる。何千年と繰り返されてきたよくある話。
でも、恋におちてその先の事はありふれてはいない。と言うより、すべての恋が違う形になる。僕たちのような恋の形はこれまでもあったんだろうか。そのふたりはどんな結末だったんだろう。

 

アンドレ大丈夫か?
オスカ・・ル?
ごめん、私が屋根に登ろうなんて言ったから。
あぁそうか。僕・・落ちたのか。
大人を呼んでくる、じっとしてて。
オスカル大丈夫。すぐに立ち上がれるから。しばらくここにいてよ。
でも・・。
大丈夫だよ。ほら、さっきの雛。親鳥が迎えにきてる。
本当だ、良かった。
ね・・大丈夫・・・だから
アンドレ?
ーーーオスカル、そんな悲しそうな顔しないで。雛は元気で飛んで行ったから・・・笑って。

 

そんな顔していると美人が台無しだぞ。
誰のことだ、それは。
いやそうだな、ここでは美青年と言っておこう。女だとバレるとややこしい。
それがどうした。
だから飲みすぎるなよ。
これくらいで酔ったりは・・しない。
やれやれ、もう帰るぞ。いやちょっと、絡んできた奴に絡むな、待てって!

・・・すまん。
まあ良いけどね、女だとバレなかっただけでも幸いだ。歩けるか?
・・・・。
ダメってことだな。オスカル・・苦しいなら、苦しいと言葉にしたほうがいい。黙っていると胸の奥に沈んでしまう。
ーーーだからそんな、悲しそう顔をしないでくれ。実らない想いを抱えて胸破れるのは・・お前にはそんな思いをしてほしく、ない。
星が綺麗だ・・な。

 

すまなかった・・・お前を苦しめたいわけじゃない。
・・・・。
俺が愛していても、お前の心には届かないと知っている。知っている・・けれど。でも愛してしまった。
ーーーお前を悲しませたくない。微笑んでいてほしい。そして・・愛してほしい、愛し返されたい。この腕の中で、お前が微笑んでくれたら。
もう二度とこんなことはしないと誓う。お前を・・二度と泣かせなくはない。

 

だから・・泣かないでほしいんだ。
お前だって・・泣いてる。
ははっ。
ふふふ・・。
今、生まれてきてよかったと思うよ、心から。
生まれて出会って、こうして愛しあえて・・まるで奇跡のようだ。
出会った頃、俺は泣かされてばかりいたけどね。
ははっ、そうだったな。
―――そう、笑っていてほしい、もう二度と・・泣かないで。

 

空の青さが薄くなっていく。鳥が帰っていく羽音がする。もう日が暮れるんだな。
ああ、もう静かになった。
戦闘は・・。
今日はもう終わった、また明日。
・・オスカル、泣いているのか。
私は・・泣いてなど・・。
泣かないでくれ、また・・明日があるんだ。戦いは続く・・明日も、その先も・・だから。
・・・アンドレ?

―――泣かないで。鳥は飛んで行った。また明日になれば、日が昇れば再び羽ばたくから。泣かないでいい、オスカル。

アンドレッ・・!!!

 

 

きっと、ありふれた話なんだろう。出会って愛しあって、そこから先はふたりだけの物語。ありふれているけれど、他の誰にも似ていない、恋人たちの物語があるんだ。

 

 

END