窓を開ける-2

「どういうことです!」
怒りに震える私を彼女が悲しげに見ていた。
「何故ひとこと言ってくれなかったんですか」
なかなか答えは返ってこず、私はますます苛立った。
「・・・・反対なのか」
「当たり前です。衛兵隊がどういうところか知っているんですか。同じ軍隊でも近衛とどれだけ違うか。平民出身が殆んどです。どんなならず者がいるかも知れない。それにブイエ将軍は」
「父の仇敵で、何かと反目しあっている。その彼の下なら、父の威光も届かない。やりにくいことこの上ないな」
彼女が皮肉げに続けた言葉が、私の感情に火をそそいだ。彼女が今の地位にいるのは、たしかに父のジャルジェ将軍の力があったからだ。そうでなければ、いくら王妃様が心許していたとしても、歳若い女性が、近衛連隊長になるなど考えられない。
私だとて、彼女が士官学校なかばで近衛に任命された時、そして連隊長になったとき、驚きとともに、羨望と嫉妬を禁じえなかった。ただ彼女はそれに見合うだけの、いや、それ以上の努力をしてきた。それを間近で見て知っているからこそ、副官として彼女を支えてきた。彼女がいる限り、当分自分に今以上の地位は望めないと分っていても、オスカルを尊敬し、愛してきた。その返礼がこれか・・。

「近衛には、お前がいる。私がいなくても、いや私以上に相応しいだろう。お前の実力からいっても、その方が自然なはずだった。今からでも遅すぎはしない」
今度は私が返答に詰まる番だった。彼女の言葉は正鵠を射ている。
彼女が連隊長に任命される前、私の名前も候補に上がっていたことはお互い知っている。力が拮抗している場合、それ以外の要因・・父親が将軍であるとか、そして-奇妙に聞こえるが-彼女が女性であることが、その時はプラスに作用したのだ。近衛連隊長という、煌びやかな地位に相応しい美貌と、女性であることの華やかさが。そしてその時私は敗れた。それからは常に私の上に彼女の存在があった・・これまでは。
心のどこかで黒いものが囁く。――カノジョガイナケレバ、イイジャナイカ――。連隊長の地位も目の前だ。彼女が転属すれば、ずっと自分より上にいて蓋をするものはいなくなる。

私の心の中は怒りと当惑で混乱していた。
彼女を愛し、尊敬している。だが同時に疎んでもいる。黒い感情に今までは見ないふりをしてきた。自分の腕の中では淡く儚い女が、公の場に立った途端、圧倒的に大きな存在になる。そのアンバランスが気持ちを苛むことは少なくなかった。だが公と私と、両方の彼女を知って支えているという自負が、彼女の下にいるという屈辱感から眼を逸らさせてきた。
そして、遠からぬ日に、公としての彼女がいなくなるだろうという気持ちがどこかにあった。自分と結婚すれば軍を退いてくれるだろう・・寝付けぬ夜にそんな風に夢想したことが何度あった?まったく、お笑い種だ。自分が何から眼をそらしていたのか突きつけられて、当惑している自分を笑い飛ばしたかった。
こんな事態は今まで予想もしなかった――彼女が自分から離れていくなど。

私は恋人を愛しているのか憎んでいるのか、判らなくなってくる。こんなにまで自分の身体も心も捕らえておいて、まるで投げ出すようなこの仕打ちは。
混乱し黙り込んだ私を彼女はただ悲しげに見ていた。苦痛がその蒼い瞳に現れていたが、彼女も押し黙っていた。何時しか外は夜の闇が迫り、重く垂れこめた雲の下に風が出てきていた。

そしてどのくらい時間がたったのか、ふと彼女が立ち上がった。
「今日は、これで失礼する」
「何故です」
「お前が私のことを心配して反対しているのは分っている・・でも決心は変わらないんだ。だから・・」
「だから?」
「・・・・・・」
「はっきり言ってください」
「・・お前が反対したら・・もうこんな風に会うのは止めようと・・そう決めていた」
私は、知らず思いきり指を握り締めていた。彼女の口からその言葉が出るのを恐れて、だから何も言い出せなかった。
「そんなことは・・・許さない!」
彼女の腕をつかんで引き寄せた。それでも顔を伏せ頭を振るだけのオスカルに、怒りが込み上げてくる。
「こんなのは、あまりに一方的だ。近衛を辞めることも、それに反対したからといって別れを切り出すのも。私の気持ちはどうなっても良いとでも」
「痛い・・手を離して」
「離しません」
「離せっ」
「嫌ですっ。今、手を離したら・・そうしたら、もう二度と」
そうだ、もう二度と・・。私は力いっぱい彼女を抱きしめた。細い体が苦しげにみじろぎする。骨が砕けるまで力を込めたいと思った。このまま腕を狭めていけば、彼女はこなごなに砕けて、飛び散ってしまうかもしれない・・それでもいい、この手を離すよりは。
「ヴィクトール・・」
か細い声が洩れた。
「窓を開けてくれ・・」

その言葉で彼女がいつか語った幼い頃の話を思い出した。
傷ついた小鳥を拾い、世話をして傷を癒した。ある日、窓を開け放ち、鳥篭の蓋をあげた。鳥はしばらく躊躇したように、籠の上でじっとしていた。彼女は息を止め、何も言わず鳥を見守った。
やがて・・鳥は白い翼を広げ、すっと部屋の中を一周すると、そのまま外へ飛び立った。
「私はその鳥がずっと遠くまで、・・みえない高みに昇るまで、瞬きもせずに見ていた。あの時、私は自分がその鳥になった気がした。籠から放たれ、一気に高く高く昇って行く・・地上はどんどん遠くなる。地に立った少女の姿はもう見えない・・。私は地表を見るのを止めて、太陽に向かって飛んでいった。陽の光の暖かさを感じて、上昇気流を羽根に受けて昇って行く・・どこまでも・・」
オスカルはそう言いながら、あの日飛び立って行った鳥の影を追っていた。
「私は・・あの鳥はどこまで飛んでいくのだろう。高く・・もっと高く、そうしていつしか太陽に飛び込んで、焼け死んでしまうのではないだろうか」
そう言っていた彼女の声が、木霊のように耳に響いた。

抱きしめた腕を緩めないまま、濡れた彼女の頬を唇でなぞり、そのまま口づけた。塩辛さが舌を刺す。髪に指を絡め、項に指先を滑らせる。彼女の身体に緊張が走り、閉じ込められた腕を押し戻そうとかなわない抵抗を試みる。私はすべての動きを封じたまま、首筋に口づけを降ろす。溜息が洩れた、泣き声のようにも聞こえた。

「ヴィクトール・・鳥篭の蓋を開けて・・」
「嫌です」
「私を解放して・・」
「・・嫌です」
「愛情という名で・・・縛らないで」
「・・離したくない」
「私を解き放って!」
「・・できません・・オスカル」
「私の名前を呼んで・・ヴィクトール・・お前の声で・・呼んで欲しい」
「駄目です・・駄目だ。そうしたら貴方はいってしまう」
「ヴィクトール・・ヴィクトール」
彼女の声は次第にかすれ、吐息ともつかぬ喘ぎが夜の闇に溶けていく。

これが最後だ。もうこんな風に身体を重ねることは二度とない。彼女の指が背中をまさぐることも、うなじに口づけすることも・・。熱い息が私の肌を湿らすことも。こんな風に身をよじる彼女の白い肢体を見下ろすことも・・。もう二度と・・。

私には分っていた。彼女は空の片隅をかすめた鳥、夜の水面に映る月・・誰も手にすることは無い。

 

ほどなく私は近衛連隊長に就任した。親や身内は喜んでくれたが、それが何になるというのだろう。彼女がいないというのに・・。
砂を噛むような思いで、それでも表面上は支障なく仕事を続けていた。ただ、時折、どうしようもなく身体を苛むものがある。例えば彼女の残した書類の上の筆跡を見つけたり、あるいは月の蒼い晩に、ふと目を覚まし、ベットがとても広いと感じる時。腕を切り落とされたような、空虚が襲ってきた。
私はただそれを黙ってやり過ごすしかなかった。降り積もる時間だけが、味方になってくれることを願って。

そんな日々のことだった。従僕のアンリが私に遠慮がちに声をかけてきたのは。
「なんだ?アンリ」
「その・・・少しお耳に入れたいことが」
彼は、何か言いにくそうに、言葉を濁している。このような態度を取るのは珍しい。昔から家に仕えていて、信頼している従僕の態度に訝しいものを感じた。
「ジャルジェ准将・・、オスカル様のことで」
「彼女の?」
それからためらいがちにアンリが告げたことは、私を奈落に突き落とした。

「・・・・なんてことだ」
ようやく振り絞るように言葉が出てきた。
「だから止めたのに・・衛兵隊なぞどんな輩がいるとも知れないから・・」
視界が狭まり、頭の奥が錐で刺したように痛んでくる。身体中の血が凍りついたように、身動きできなかった。
「オスカル様は事を公になさいませんでした。知っているのも軍幹部の数人だけでしょう。私はたまたまそのうちの一人が話しているのを耳にしましたが。オスカル様は、このことについて処分はなさらないという意向のようで」
「処分だと!!」
知らずあげた大声に忠実なアンリが思わず後ずさる。私はテーブルに手をついて、かろうじて体を支えていたが、その上にあった繊細なガラスの文鎮を、力任せに拳で叩き割った。
ガラスに彫られていた、儚げな人魚の半身が砕け散り、断末の叫びを上げて、散り落ちる。

「そんな奴らなど、目を抉り出してしまえばいいんだ!二度と彼女に・・そんなことを・・」
後は言葉にならない。怒りと後悔が錯綜して、考えがまとまらなかった。血に染まった手をなおも握り締めている私の横で、アンリが不安げに、声も出せず立ちつくしている。
あの時なんとしてでも止めていれば・・いや、今からでも遅くない。彼女に直接言ってもおそらく無駄だろうが、何か手段があるはずだ。何か、きっと・・・。

「これは・・何の冗談だ」
彼女の声が震えている。私たちは、ジャルジェ家の客間で、向かい合っていた。
こんな風にもって回って外堀から埋めるようなやり方は、彼女の怒りをかうことは分っていた。だが私は、彼女を危険から遠ざけるためには、最も効果的だと思える方法を選んだ。そのために、彼女の怒りで焼き尽くされようと・・。
案の定、彼女の怒りは激しかった。声を震わせ、唇を噛みしめ、目の前にいる男は気でも触れたのかと、言わんばかりの目をしていた。彼女には、私が何故このような行動を取ったのか理解できない。私があの事件を知っているとはよもや思っていないのだ。何故今になってこんな形で、父親まで巻き込むのか・・。そう彼女は当惑しただろう。

父親――彼女に男の名前をつけ、軍人として生きることを強要した。親という絶対的な権力をもって、彼女を頚木に繋げた人物。オスカルに楔を打ち込むなら、この父の存在をおいて他に無いと私は知っていた。

オスカルが力任せに閉めた扉に向かって立つ、その父親は悄然としていた。そして、深い息をひとつつくと、椅子に座り込んだ。
「ジェローデル大佐」
「はい・・」
「私は・・間違っているのだろうか」
将軍の問いの意味はわかっていたが、私は答えなかった。
ひどく年老いて見えるこの男は、今まで自分が信じて娘に示してきた道に、暗雲が漂っているのに気づいていた。この不安な情勢のなかで、女が軍隊にいること、それも近衛を飛び出して、自分の目の届かない他の隊に入った娘を案じるあまり、自分が敷いたレールからはみ出す娘を再び取り込もうとしていた。愛情で目が曇った父は、それが愚かなことだと知っているのかどうか。

私も彼女が閉じた扉を黙って見つめていた。その重い扉は彼女の拒絶を表しているようだったが、私は諦めるつもりは無かった。彼女を火にまかれた道から救い出すためには、これしかないのだから・・。

思っていた以上に彼女の抵抗は激しかった。屋敷を訪れても、ろくに顔を合わせようともしない。多分私は彼女の中に残っているはずの、私への愛情の欠片すら、そうして無駄に浪費していったのだろう。彼女がまだ愛し合った日々の残光でも覚えているなら、突破口はあるはずだと、そう信じていた。私は彼女に関する限り、まったく無邪気ですらあった。私は過去に生き、彼女は未来しか向いていないことに気づかぬまま・・。

そんな日々のなかでジャルジェ将軍は焦っていた。娘は全く彼の手におえなくなり、命令も懇願も、断固として跳ね返している。何故彼女がそこまで強固な壁を作ってしまったのか、彼には理解できなかった。無理もない、この、仕事では優秀だが、家庭のなかで、誰かを理解することなど殆んど必要の無かった、父親というもの。彼は私と彼女の間柄など毛ほども気づいていなかった。
求婚者が私だったから・・彼女の前に立ちはだかったのが、他でもない、かって愛した男だったから。自分を理解し支えていてくれたはずの男達は、二人して彼女を今いる場所から引き摺り下ろそうとしている。彼女にとってはこの上の無い、裏切りと屈辱・・。

そうして父親は、娘を理解しないまま、更なる泥沼の幕を開けた。

私以外の求婚者を募る、と聞いた時、私は危うく笑い出すところだった。それは彼女の抵抗に火を注ぐだけの結果に終わることは、目に見えているというのに。この期に及んでもまだ強権でどうにかなると思っている将軍に対して、怒りとも、哀れみともつかぬ感情を抱いたが、心の奥底では彼に共感していた・・将軍は心配し、焦り、その感情で目が見えなくなっている。私も同様に・・多分これが最後のチャンスだろう。彼女の殻を打ち破り、その内壁に入り込まなくてはいけない。

今度は私が彼女に頚木に繋げる番だ。そこまで考えて私は不安にかられた・・できるのだろうか。彼女をもう一度私の手の中に取り戻すことが・・果たして本当に・?

「・・オスカル」
暗がりの庭の泉のそばで、私は彼女を見つけた。空を見つめたまま悄然として座り込んでいる。並み居る求婚者を礼装で向かえた彼女に、父将軍は言葉も出ず青ざめたままだった。そして当然の結末、もう私以外に求婚の意思を表すものはいないだろう。

その彼女は疲れているようだった。父親との確執はこれまで彼の敷いたレールに沿っていた彼女にはかなり心重いものであるはずだ。初めて自分から道をたがえようとした娘を、彼は取り戻そうと必死になっている。あの父親は、仮に彼女の行く手を塞いだとしても、帰ってくるのが自分のところではなく、夫たる男のもとだということに気づいているだろうか。
愛情という名で彼女を縛るもの、それはこれから父親ではなく夫になるのだ。私はこれから白い鳥を鳥篭に閉じ込め、扉に金の鍵をかける。

「何故・・」
私が傍らに座っても、まるで意に介さないように虚空を見ていた彼女が、独り言のように呟いた。
「何故、こんな風に私を追い詰めるんだ。お前も・・父上も」
彼女はようやく私に向き直った。その眼の中には、怒りよりも悲しみが浮かんでいる。
「貴方を愛し、身を案じているからです」
「・・復讐かと思った」
「復讐?」
「自分の思い通りの道を進まない娘への、そして、何も言わずお前の元を去った私への・・これが」
「そんな風に思っていたんですか!」
私は怒りを感じて彼女の腕を捕まえ、自分に向けさせた。
「私は一度は納得しようとした。恋人という関係に甘えて、貴方を理解しようとしてこなかった自分が悪いのだと。だから貴方の行く手を阻む資格はないと。そう思って・・だがその結果貴方の身に危険が及ぶようなことになるのなら、私も黙っているわけにはいきません」
「危険?そんなことは・・」
「承知の上だったと?男たちに拉致されることも・・」
腕の中の彼女の身体が震えた。
「どうして・・知って」
「同じ陸軍内であのようなことが全く外にでないとお思いですか。確かに表沙汰にはならなかったが、私だけじゃないジェルジェ将軍も、それを聞いた時どれほど・・」
「・・・父上が」
顔を下に向けたまま、彼女の身体から力が抜けた。震えているのは夜の冷気のためでなく、蘇った記憶のせいだろう。私は怯えた愛しい女性を抱きしめた。
「私も血が凍りそうだった。すぐにでも飛んで行って貴方を傷つけようとした者達を罰したかった。貴方の手を離して、危険に飛び込むに任せた自分をどれだけ呪ったか。だからもう離さない、二度と・・あんな思いはしたくない」
もう手にすることは無いだろうと、一度は諦めた白い身体を私はあらん限りの力で抱き取っていた。彼女が苦しそうに顔をゆがめても、腕を緩めるつもりは無かった。
「オスカル、愛し合った記憶の片鱗でも残っているなら、こんな私を哀れに思ってください。貴方をどうしても思い切れない、このまま・・もう一度手放すくらいなら、生きたまま墓に葬られた方がましだ!」
私は彼女の唇を吸って舌を絡めた。暗闇に浮かぶ金髪を掻き乱し、襟元から覗く細い首筋を歯で甘く噛む。何も変わっていないのに、彼女の声、眉を寄せた顔、胸元から立ち上る香りも・・以前のままだというのに、彼女の心だけがここに無い。私はそれを引き寄せたかった、取り戻したかった、そうしたら決して離しはしない。

だが、どれだけの熱をこめて口付けしても、応えは無い。首を振って逃れようとしていた身体から徐々に力が抜けていき、俯いた顔は金髪に隠れて表情を伺えなかった。
「葬るというなら・・私をこそ殺してくれ」
「・・オスカル」
「今、お前の手で殺されるなら、それでもいい。そうすれば私はどこへも行かない。」
「・・・」
「羽根を折られて、籠に入れられるのなら。ここでこのまま、おまえの腕の中で逝くほうがいい。それが出来ないというなら・・もう手を離して、私を解放してくれ」
解き放つ・・彼女はそう言った。私はあの時身を切られる思いで、彼女を手離した。
あの夢が蘇る。力強い羽根で飛び立っていった彼女。追うことも出来ず地を這う自分。私をおいて天上へと昇っていく鳥。地上に残した者のことなど振り返らずに・・。

白い首に指をかけた。それは私の手には余るほど細く、あまりにも頼りない。力を込めると、苦しげに眉を寄せた。私は眼を閉じて、指に力を入れる。
「・・・ヴィク・・トー・・ル」
小さく開かれた唇からかすかな声が洩れた。
私はそれを覚えている。眼を射る光の中で、そこだけ紅く染まった口元。私の肌を切り裂く羽、私は天の鳥を捕らえて、その息の根を止めようとしているのだ。彼女の顔が歪み、私を押し戻そうとした腕がだらりと揺れる。
だがそのとき―――

背後の繁みが揺れ、バサッという葉づれの音とともに、ナイチンゲールが夜の闇を裂いて飛び立つ。呆然としてその白い鳥が飛んで行くのを見守った。鳥は闇に浮かぶ黒い木立の彼方へ、煌々と輝く望月へと昇っていく。あの夢に見たと同じように、その姿は月光を含んで限りない高みへと。そして・・やがてその羽音も姿も見えなくなった。
力の抜けた私の腕から彼女の身体が滑り落ちる。

 

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