証明-彼女

ならば証明してみせる
私がどれだけお前を愛しているか

髪を全て切り落としお前のジレの刺繍にしよう
爪を剥いで砕き髪粉にしよう
痛みに零れる涙でお前のシャツを晒そう 
流れる血はワインの代わりにグラスに受け喉を潤す 

そして眼を

くり抜いて

お前の左眼に移そう
右は黒く左は青いお前の瞳
その網膜にひとりの女の残骸が映る

金の髪も青い瞳も失って

ただ
赤い唇だけが
お前への愛を歌う

それが私の証明

 

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月の道

満月が夜の海を照らすと、此処ではない世界へ通じる道ができる。

 

 

「御伽話だ、昔の」
「どこで聞いたんだ?」
「さあ、どこだったのかな。まだこの館に来る前。故郷の・・村の」
「母上から?」
「そうかもしれない。母も俺も、海など見たことはなかったのに。寝物語に語る声を聴きながら考えていた。夜の海に輝く道・・・どこへ行くのだろうと」
「・・っアンドレ!」
「どうした?」
「いや・・今、一瞬」
「どうしてそんな悲しい顔をする。俺はここにいるだろう」
「アンドレ、お前はどこへも行ったりしないな」
「・・・そばにいるよ」
「本当に?」
「何処にも行ったりしない」
「約束して」

その後、お前は答えなかった。私を抱き寄せ、静かに髪を撫でていた。ひとつ残った瞳が、遠くを見つめていた。
どうして私が腕の中にいるのに、どうしてお前は黙って遠くを見て、このかけがえのない心臓の音がこれほど強いのに、どうして

 

どうして?

 

 

 

私を遺して逝ってしまうことを知っていたんだろう。

 

 

 

見たこともない景色、凪いだ暗い海面に揺れる月の光。お前はその道の先へと逝ってしまう。
私もいきたい、私も其処へ行きたい、連れていって。遺されたくはない、置いていかれるのは嫌。

だから行く、もうすぐだ。今空は青い、月の道は見えない。でも私は知っている、道の先にお前がいるから怖くはないよ。光が翳っていく、闇が訪れる、その向こうに望月が見える、お前の、微笑んだ・・その横顔。もうすぐだ・・・もうすぐ。